曇った空、舗装されていない道路、忙しく行き交う人と乗り物、舞う砂埃。でこぼこの道路を、リキシャーがガタゴトと音を立てて進む。市場の客引きの声が聞こえる。ヒンドゥー寺院と仏教寺院。無秩序で雑多。もし、世界に中心があるとすれば、ネパールは辺境の地と言えるだろう。しかしながら、首都カトマンズは、忙しい、喧噪の街だった。
カトマンズの持つ不思議な魅力の所以は、喧噪と混沌の間にある静けさ、とでも言えよう。劣悪な環境でありながら落ち着ける場所である。
夜は暗い。繁華街であっても夜の9時頃には店じまいである。1日に8時間以上もある輪番停電のせいでもある。昼までも停電と、曇り空のせいで、いつもどんよりとした空気が流れている。しかし、晴れた日に、外に出てみると気持ちがいい。ゲストハウスの屋上に登ると、カトマンズの街が見渡せる。高いビルは無い。遠くで車のクラクションの音がする。彼方にヒマラヤが見える。晴れた空を見上げながら、チャイを飲むと、ほっとした気持ちになる。
タメル地区は、バックパッカーが集うところである。安宿、安いレストラン、土産物屋、旅行代理店、トレッキンググッズショップなどが軒を連ねる。チベットの民芸品を扱う店も多く、見ていて飽きない。
カトマンズの魅力をさらに引き立てるのが、安くてうまい食事である。「世界で一番安くて美味い日本食が食べられるのはタメルだ」と言われるほどである。タメルの日本食レストランの味は素晴らしい。テーブルには本物の醤油が置いてあって、片時ではあるが、日本を思い出すことができる。長旅で疲れた心と身体を癒してくれる。
日本人がネパールを好きになる理由は、この遠くはなれた辺境の地で、喧噪と無秩序の街で、おいしい日本料理を食べられることなのかもしれない。私も何度か足を運び、ラーメンやカツ丼を食べた。
しかし、ここで話したいのはネパール料理についてである。
モモというのは、チベット風の蒸し餃子のことで、具には野菜とマトン、ヤクなどの肉が用いられる。
タメル地区の北に、ニューエベレストモモセンターという、安くて美味しいモモの店があるので、ここで紹介したい。
画像：ニューエベレストモモセンター外観（画像の出典：www.tripadvisor.com）
おそらく、どんなガイドブックにも載っているだろう。カトマンズでは有名な店である。日本語の看板もでている。見つけるのに苦労することは無いだろう。
店の前でモモを蒸しており、もくもくと蒸気が上がっている。蒸し器の横を通り、店の中に入る。薄暗い。停電のせいで、高級ホテルや高級レストラン以外のほとんどの店は、昼間でも薄暗く、どんよりとしている。
画像：モモを蒸す様子（画像の出典：www.tripadvisor.com）
席に着くと注文をスタッフが注文をとりに来る。いや、メニューはモモ1皿（10個入り）のみだから、注文をするまでもなく、座って数分待てば、銀色に皿に盛ったモモが目の前に置かれるだろう。とにかく、速い。さすが、メニューがひとつしかないだけのことはある。ちなみにイレギュラーで5個入りも注文できる。
店内を見回すと、ネパール人の客が大半を占め、時にヨーロッパからの旅行者も目にする。ほぼ満席である。地元民に好かれる良い店であることが想像される。みんな勢いよくモモを食べている。
さて、そのモモである。日本で食べる餃子よりも少し小ぶりで、まるっこい。
並べられた10個のモモに、白いスープがどっとかけられている。香ばしい。何かはよくわからないが様々な香辛料が入っているようで、良い香りがする。
画像：モモ10個入り（画像の出典：www.tripadvisor.com）
湯気が立っている。蒸したてなのだ。スプーンで、スープのなかからモモを掬い上げて食べる。予想以上に熱く、予想以上にスパイシーなので気を付けるべきである。モモの味も良いが、このスープこそがニューエベレストモモセンターの人気の所以であろう。病み付きになる味である。
ただ、人によっては辛すぎるということもあるから、その際は、スープを少な目に、あるいはスープ無しにしてもらうこともできる。
黙々とモモを食べていると、スタッフがスープを継ぎ足しに来る。皿に並々注いでくれる。周りの客はそのスープも一生懸命に飲む。
モモ10個を食べ終わると、いい具合に腹が満たされる。とちらかというと間食、軽食向きかもしれないが、私は、毎日の昼食をニューエベレストモモセンターでとっていた。
勘定は50ネパールルピーだから、日本円でいうと50円ぐらいである。流行っているのにも納得がいく安さである。
小腹がすいた時に、ふらっと気軽に入れて、安くて美味しいモモの店。カトマンズを再訪したら、また行きたい。
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